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WIMP

ダークマターの正体が何なのかについては、色々と仮説が立てられていることは話しました。有力なものの1つに、WIMPと呼ばれる粒子がダークマターだとする説があります。WIMPは、Weakly Interacting Massive Particle、「弱く反応する重い粒子」の略。弱虫の意味がある英単語、wimpにかけた名前です。

WIMPの特徴はまず、陽子や中性子の10~1000倍くらいの質量、つまり、原子核と大体同じくらいの質量を持っている事。(原子核は数個から200個くらいの陽子と中性子で出来ているので)

そして、ダークマターの候補だということから分かるように、電磁力や強い相互作用(核力)などの、強い力で反応することが無い、という特徴があります。ダークマターであるためには、重力では反応しないといけませんし、もう1つの知られている力、弱い相互作用でもWIMPが普通の物質と反応する可能性はあります。さらに、この4つの知られている力とはまた別の、新しい種類の反応を見せる可能性も無いとは言えません。とにかく、電磁力と強い相互作用は無し、という事。

なんでWIMPがダークマターの有力候補なのかは、また別の機会に話そうかと思いますが、今日は、このWIMPがダークマターだったとして、どうやって検知するのか、です。


光は電磁波なので、電磁力と反応しない物質を望遠鏡や顕微鏡で見ることは出来ません。という事は、WIMPを検知するためには、なにかもっと間接的な手段で、WIMPが普通の物質と反応した事を見ないといけないんです。

電磁力と強い相互作用に影響されない粒子、と言うのは、他にもあって、これは検出されています。それは、ニュートリノ。日本の研究施設が先端を行っているので、名前は聞いたことがあるんじゃないかと思います。ニュートリノの検出のために、どういう事をしているのかは、WIMP検出のヒントになります。


岐阜県にあるスーパーカミオカンデというニュートリノを観測するための装置は、3000トンの超純水が入った巨大な水槽です。

どうやってただの水槽でニュートリノを見つけるかと言うと、ニュートリノは、水の分子の中の電子とぶつかって、電子を水から分離させることがあります(これは、弱い相互作用による反応です)。そして、カミオカンデの水槽の壁には、電子が水の分子から分離されて、単独で動いている事を検知するための装置が付いているんですね。(注)

Super-K

要するに、WIMPを観測するにも、普通の物質とぶつかった場合の、その衝突の影響が観測出来ればいいんです。


最初に書いたように、WIMPは原子核と同じくらいの質量を持っています。という事は、原子核と正面衝突出来たとすると、なかなかのインパクトがあると思われます。(ニュートリノの質量はとても小さいので、原子核と衝突してもほとんど影響がありません)

原子核が、他の原子核にぶつかられるのと似た反応を検知出来る装置を作れば、WIMPが見つけられるかも知れないわけです。


実際のところ難しいのは、単にこういう反応を検知出来る装置を作ることじゃないんです。問題なのは、WIMP以外の物質に装置がぶつかられないようにする事と、もしWIMP以外のものにぶつかられたとしても、これはWIMPじゃないよ、と分かるように装置をデザインする事です。衝突があったよ、という証拠があっても、衝突してきたのがWIMPなのか、原子核なのか、電子なのか、ガンマ線なのか、ちゃんと分からなければ、WIMPの発見とは言えませんから。


WIMP以外のものにぶつかられる回数を減らす方法は、ニュートリノの実験がまたヒントになります。

ニュートリノの実験は(多分)全部、鉱山にあります。なぜかと言うと、地上には、宇宙から色々な粒子(宇宙線)が降り注いでいて、実験装置にどんどん当たってきてしまうからです。地下深くに潜れば、こういった粒子は土と反応するので、実験装置まで届かなくなります。ニュートリノなら、他の物質とほとんど反応しないので、土の中を通り過ぎてくるわけです。

WIMPを測る際にも、ニュートリノ実験と同じ様に鉱山に装置を置くことになります。


地下に潜っても、邪魔になるものが無いわけではありません。地面の中には、色々な放射性物質があります。放射性物質が出すのは、電子、中性子、原子核、ガンマ線(エネルギーの強い光)です。

こういった邪魔者をWIMPと区別するために、実験物理学者たちはいろんな工夫をしています。その工夫の1つと、先月発表された実験成果を、次回書いてみます。

(注)正確には、電子が光より早く移動する際に出る、チェレンコフ光、というのを観測しています。これは、音速より速い飛行機から出るソニックブームと同じ様な現象です。水の中での光の速度は、真空での速度(いわゆる光速)の約4分の3なので、電子の方が光より早く動く事が可能なんです。
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ダークマターへの3つの道

ダークマターの話の続きです。ここまでは、普通の物質とは違う、ダークマターという物質の存在の証拠、でした。

遠くの銀河系の観測などから分かってきたのは、銀河系の質量のほとんどは、望遠鏡で見えない物質だという事。そして、その物質は、重力以外では、他の物質とほとんど反応しないという事でした。


これは、ダークマターについてさらに調べるためには障害になります。望遠鏡で見えないだけでなく、研究室を通り抜けたりしても観測出来る影響がほとんど無いわけですから。

最悪の場合、ダークマターは重力でしか反応しない、という可能性もあります。前にも書いた話ですが、重力は、電磁力などの力と比べると極端に弱いんです。

普通に生活していると、重力は強いような気がしてしまいますが、それは地球の質量が巨大だから。見方を変えれば、巨大な地球の重力に逆らって、人間は手を挙げたり出来る、とも言えるわけです。(注)

その弱い重力でしかダークマターを探れないとなると、大変です。なので、この可能性は物理学者達は当面は無視することにしています(笑)面倒だから、という事ではなくて、もしそうだとしたら、ダークマターについてはこれ以上知ることは出来ないかも知れないので、まずは、もっと分かるかも知れない方法を試してみよう、という事です。


というわけで、ダークマターが何なのか、そしてどうやったらさらに調べられるのか、色々な説が現れました。いえ、今でも毎月のように新説を唱える論文が出ています。

そして、地上での実験や、天文観測をする人達は、こういった説の中から、どれが有望なのか調べて、その説に沿ってダークマターを観測出来るかどうか試しているわけです。


もし、ダークマターが他の物質と重力以外の力で反応出来るとします。この場合、どんなに力が弱いとしても、普通の物質とダークマターが衝突して、ビリヤードボールのように弾き合う可能性がある、という事になります。

これが、ダークマターを調べるアプローチその1。直接、普通の物質との衝突を観測する方法です。


素粒子論では、ファインマン・ダイアグラムと呼ばれる図で、粒子同士の反応を表します。例えば、ダークマターと電子が衝突するのは、↓このような図になります。時間が下から上に進んでいるとすると、ダークマターχと、電子eが粒子を交換して、また離れて行くわけです。

snap_grizz_20101314157.jpg

ファインマン・ダイアグラムが素粒子論で役に立つ理由の1つに、図で描かれた反応が起こる場合、時間の進む向きを変えても、その反応は起こる、という事があります。(矢印が時間の向きと反対の粒子は、反粒子と解釈)

↑の図を、90°回してみるとこうなります↓

snap_grizz_20101315024.jpg

下から上に時間が進んでいるとすると、普通の物質同士(この場合、電子と陽電子)が衝突した後、何らかの粒子に一時的に変わって、それからダークマターの粒子になる、という図です。

つまり、普通の物質を衝突させると、ダークマターが出てくる可能性がある、という事。LHCなどの粒子加速器で、ダークマターを作ることが出来るかも知れないわけです。これが、2つ目のアプローチ。


3つ目のアプローチは、↑の図から180°回転させると出てきます。

snap_grizz_20101314810.jpg

ダークマターの粒子同士が衝突して、そこから普通の物質が出て来る図になります。

宇宙の中でも、ダークマターが沢山ある部分からは、何も無いように見えるところから普通の物質が作られている可能性があるというわけ。ガンマ線の望遠鏡などを使えば、間接的に、ダークマターの反応を観測出来るかも知れないんです。


次からは、1つ目のアプローチに付いて話すつもりです。他の2つは、リクエストがあれば。

(注)これも見方の問題なんですが、重力が弱いのでは無くて、陽子など、普通の物質を作り上げる素粒子の質量が小さい、という方が正確です。

何かが「小さい」、と言うのは何か他のものと比較しているわけですが、重力の強さを示すニュートンの定数(G)は、距離^3/質量/時間^2 の単位を持っています。この単位を持った他の定数と言うのは無いので、ニュートンの定数が大きいか小さいかという事は言えないんですね。一方、質量には、プランク質量という、理論から、普通の現象にはこの位の質量が現れるだろう、と予想される量があります。そしてこのプランク質量は、陽子の質量より19桁も大きい質量なんです。

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サンフランシスコ、1906

ダークマターの話をどう続けるか考え中ですが、代わりにYouTubeの映像でもどうぞ。

1906年の大地震に襲われるほんの数日前のサンフランシスコ。目抜き通り、マーケット・ストリートを通るストリートカーから撮った映像です。



追加:
大地震の6週間後のサンフランシスコ。凧を使って撮ったパノラマ写真…だそうです。クリックすると拡大できますが、さらに解像度の高いのも見られます→こちら

San Francisco

ビデオとちょうど正反対の向きから撮った写真、ですね。

今では、右の方にゴールデンゲートブリッジ、左下にベイブリッジがあります。

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Big O

月曜日は、マーティン・ルーサー・キングJr.牧師の記念日でした。(誕生日が15日)

彼が暗殺されたのはメンフィスで、暗殺現場のモーテルは、公民権運動の博物館になっています。

祝日に深い関係のある土地という事で、毎年グリズリーズは記念日に試合をして、ハーフタイムに人権に関わる活動をしている元NBA選手を表彰しています。全米放送なのがシーズン中この試合だけだったりするんですが…それはいいとして、今年表彰されたのは、最近引退したアロンゾ・モーニングと、殿堂入りしているオスカー・ロバートソンでした。

オスカー・ロバートソンは、シーズン通じてトリプルダブルのアベレージを記録した唯一のNBA選手(61-62年、30.8点、12.5リバウンド、11.4アシスト)。マジック・ジョンソンと並んで、NBA史上最高のポイントガードと言っていい選手です。

Oscar Robertson


そのロバートソンの大学時代の話に、思うところがありました。(元記事


彼がシンシナティ大学でプレーしていたのは56年から60年。市民権運動が本格化しはじめた頃です。町によっては、白人しか入れないホテル、レストランがあった時代。こういう町にアウェイゲームで訪れる際、ロバートソンの白人のチームメイト達は、"Whites only"のホテルに泊まり、レストランで食事をしたそうなんですね。ロバートソンは、1人で泊まる場所も食事も探さなければならなかった、と。

チームのスター選手だったというのに、チームメイトはこうした差別を防ごうとしなかったわけです。(言うは易し、ですが)

この話についてのグリズリーズHCのホリンズのコメントが、
"I don't know if people can understand the humanity in someone who endured all that and still not be bitter to the point where they can't function in life."

こんな仕打ちを受けても、憎しみに凝り固まる事の無かった人間性に感激する、と。


想像するだけでゾッとするような話なんですが、それほど、今ではありえない、と言う事でもあります。50年で、全く違う社会になったんですね。

不当な差別が全く無いわけではないですし、まだ残っている格差のために、多くの黒人にとっては機会の平等があるとも言えません。ですが、公の場での人種差別的な行動や言動は、今のアメリカでは社会的に許される事ではありません。(むしろ、過剰反応な部分もあります)


1、2世代で全く違う社会になる、というのは、現代では当たり前のこと。自分の一生の中でも、携帯電話、コンピュータ、インターネットが普及した事で日々の生活が大きく変わりました。親の代まで含めると、カラーテレビ、空の旅…キリがないです。

戦前から生きているおじいさん、おばあさんに、今の世界と言うのはどういう風に見えるのか気になると同時に、これから半世紀くらいで、どんな変化があるのか楽しみなんですね。予想もいくらかはしますが、往年のヤンキースの名選手ヨギ・ベラが言った通り、"It's hard to predict, especially about the future."(「予想するのは難しいんだ、特に未来については」)ですから。

自分やうちの両親の場合、生きている間に一番変わった事、というのは技術の進歩ですが、オスカー・ロバートソンのような場合、そこでは無いんでしょうね。

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足りない物質~その3

銀河系内の星の速度や重力レンズの分析から、新しい種類の物質、ダークマターがあると思われることを書きました。

ただ、どちらの証拠も、パッと見でわかるものではない、ように思います。新しい種類の物質でもなんでもなくて、たまたま、望遠鏡で観測しにくい物質があるんじゃないか、と言われると、細かい話に立ち入らないと反論できませんから。


今日は、ダークマターは、普通の物質とは確かに違うんだ、と一目で分かる証拠を紹介します。それは、弾丸銀河団、と呼ばれる銀河の集まりを観測して出て来たものです。


この弾丸銀河団、人の目で見える光(可視光)で見ると、なにも変な事がありそうには見えないですし、なんで「弾丸」銀河団なのかも良く分かりません。

可視光

でも、X線を感知する望遠鏡で見てみると、面白い事が分かります。

X線
コーンの形をしたX線の元があって、弾丸のように見えます。

銀河系の中でX線を発するのは、主に熱いガス。この写真は、弾丸銀河団の中の銀河系2つが衝突したのを捉えたものだと考えられます。コーン状になっているのは、高速でガスが衝突した際に出来たショックウェーブです。

そしてこのX線の観測などから、熱いガスが、この銀河では質量のほとんどを占めている事も分かりました。という事は、この銀河団の重力レンズとしての性質を分析すれば、ガスの部分に質量が集中しているように見えるはずなんです。


実際に、弾丸銀河団の向こうから来る光がどういう風に曲げられているのか調べた結果が、↓これ。

dark matter
可視光とX線(赤)の画像と重ね合わせて、青い色で表されているのが、重力レンズから分かった質量の分布です。

質量が、X線を発するガスとは、全然違うところに集中しています

重力レンズから見た質量分布と、望遠鏡のデータから見た質量分布がここまで違う、というのは、重力レンズの理論を微調整したら辻褄が合せられるような食い違いではありません。これは、どう考えても新種の物質がある証拠だ、と大体の物理学者は考えていると思います。


質量分布のほとんどが、星でもガスでもない、新しい物質だとして、なぜこういう分布なんでしょうか

ガスの分布が、衝突の起こった辺りに残っているのは、ガスとガスが衝突した場合、するりと通り抜けられないように摩擦(空気抵抗)が起こるからです。これは元はと言えば、ガスの中の分子の間で、引きよせ合ったり、反発したりと、色々な力が働いているから。

一方、ダークマター同士や、ダークマターとガスの間では、そういった摩擦は無く、するりとお互いを通り抜けてしまうのだと考えられます。だから、衝突の場所から、ガスよりも速く離れていっている、と。この事から、ダークマター同士、ダークマターとガスの間には、重力以外の力が働かない、または、他の力が働いたとしてもそれはとても弱いものだと考えられるんです。

ダークマターと普通の物質の間にはほとんど反応が無い、と言うのは、地上の実験ではダークマターの証拠が無かった事の説明にもなります。


天文観測から出てきた証拠から、ダークマターは、全体の質量が多いので、重力で普通の物質に大きな影響を与えるけれど、どうやらそれ以外には、ほとんど普通の物質と関わりあう事がない、という絵が見えてきました。

そんなダークマターの性質について、これ以上どうやったら分かるのか。続きます。

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足りない物質~その2

ダークマターの証拠、第二弾。(第一弾

今日はまず、前の重力の話にちょっと繋げていきます。


光には、質量がありません。ニュートンの重力の理論は、万有引力、とはいっても、質量があるものにしか働かない引力です。ニュートンが正しいとすれば、光は重いものに引っ張られることは無いんです。

アインシュタインが変えた事の1つは、これ。


アインシュタインの十八番だった思考実験の1つに、エレベーターの思考実験があります。

宇宙空間を、上(というか天井)に向かって加速しているエレベーターの中では、物が床に向かって引っ張られているように見えます。アインシュタインは、このエレベーターの中では、床の方向に地球があって重力が働いているのか、それとも天井の方向に向かって加速しているのかは区別出来ないのでは、と考えたんですね。これが、先月説明した等価原理の1つの見方です。

では、エレベーターの横に小さな穴が空いていて、光が真横に横切っていったらどうなるでしょうか?エレベーターが天井に向かって加速している場合、光は下に向かって曲がっているように見えるはずです(分かりますか?)。本当に、加速運動と重力の間の区別が出来ないとしたら、床の方向から重力が働いている場合にも、光は下に向かって曲がっていくはずなんです。

つまり、アインシュタインは、光も落ちる、と言ったんです。

この予測は、太陽の近くを通る星の光が曲がっている(星の位置がほんのちょっと違って見える)、という事で正しいことが分かりました。


どんな天体でも、近くを通る光を曲げています。ちょうど、レンズのような働きをするので、重力レンズ、と言われます。

レンズを通してみると、1つの物がいくつも見えたりしますよね。同じ様なことが、重力レンズによっても起こります。ハッブル宇宙望遠鏡の写真でどうぞ↓

Hubble

白っぽくて、丸っこい天体は、それぞれが1つの銀河系で、それが何個も比較的近くに固まっています。つまりこれは、銀河団の写真。

それ以外に見えるのは、その固まりの向こう側にある天体なんですが、少し不思議に見えませんか?

写真の真ん中辺りに見える、銀河団の向こうの銀河系は、どれも極端に細長いですよね。これは、重力レンズによって歪んで見えているからです。

そして、歪んでいる銀河系の中に、色が一緒で、形も似ているのがいくつか見えませんか?クリックして拡大してみると分かりやすいと思います。同じ様に見えるのは、同じ銀河系がいくつも見えているからです。


こういった重力レンズは、情報の宝庫です。なぜかというと、重力レンズの特徴を決めるのは、レンズとなっている天体の質量の分布だから。つまり、レンズの向こうから来る光が、どうやってレンズに曲げられるのかを調べれば、レンズになっている天体の質量の分布が分かるんです。

上の写真に出ている銀河団の質量分布は、重力レンズの分析からある程度分かっています。
CL0024
(写真はLSSTより)

何個も針のように突き上がっているのが、写真でも見える銀河系です。当然、周りより質量の密度がずっと高くなっています。

でも注目したいのは、針以外の部分。写真では、銀河系の間に物質が沢山あるようには見えません。重力レンズから見てみると、銀河系の無い部分にも、ふっくらとした質量のかたまりがあるんです。


これも、ダークマターの証拠だと考えられています。

もし一般相対論が正しくて、重力レンズの働きを正しく計算することが出来ているのなら、この銀河団には、大量の見えない物質がある、としか考えられません。

こんな風に、1つ1つの銀河系の外にまでダークマターが広がっているのだとしたら、前回の証拠、銀河系の中心からはるか遠くの星にも強い重力が働いていることも説明出来ます。

証拠に付いてはここまででもいいんですが、もう1つ、キレイな重力レンズの例を次回出します。

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足りない物質~その1

(ルービンの観測について、訂正があります)

ダークマターについてのセミナーのほとんどは、今回する話をちょろっとして始まります。ここにいる人(予備知識のいくらかある物理学者)はもうみんな知ってるよ、と毎回思うんですが…


近代物理学と天文学の最初の定量的な発見と言っていいのが、ケプラーの法則。惑星が太陽を回る軌道には、単純に表せる法則性があることが観測から分かったんです。

今回の話に関係あるのは、そのケプラーの第3法則。

惑星の公転周期の2乗は、軌道の長半径の3乗に比例する」という法則です。(長半径は、太陽からの距離として考えてもらって結構です)

これはつまり、太陽からの距離が離れると、ある規則に沿って1年の長さが伸びる、という事です。


そして、この法則から少し計算してもらえると分かるのは、惑星が公転する際の速度の2乗は、太陽からの距離に反比例する、という事です。(軌道の長さが、太陽からの距離と比例する事を使えば分かります)

これは、遠くなればなるほど、太陽からの引力が弱くなるから、です。ひもにつけたものを振り回すお約束の実験をやってもらえると分かります。速く回すためには、ひもをより強く引っ張らないといけません。

実際、8つの惑星の太陽からの距離と、公転の平均速度をグラフにしてみると、きれいな曲線で繋がります。

Solar System


さて、膨大な数の星で出来た銀河系の中に太陽系がある事、そして、銀河系は他にもあるという事は、20世紀前半にやっと分かった事です。

銀河系も太陽系と一緒で、天体の間に働く引力でまとめられているはず、という事で、銀河系の中のガスが銀河の中心を回る速度にも、似たような関係が成り立つのかどうか確かめた人がいました。有名なのは1970年代にこの研究をしたヴェラ・ルービン。


遠くのガスの速度をどうやって測るかと言うと、光にも、音と同じでドップラー効果が起こる事を利用します。救急車が近づいてくる時は音が高く聞こえて(周波数が上がって)、遠ざかっていく時は低く聞こえる(周波数が下がる)のと同じように、近付いてくるものが発する光は少し青がかって、遠ざかるものが発する光は赤っぽくなるんですね。

これは、光が元々あまりに速いために、肉眼で分かるようなものではないです(*)。ガスから来るスペクトルを綿密に調べて、少し光の波長がズレていたら、あ、動いているな、と分かるんですね。そしてそのズレの度合いから、速さが分かります。


太陽系の場合と少し違うのは、太陽系の質量のほぼ全て(99.86%)は太陽に集中している事。銀河系の場合、中心から離れた場所にも質量が分布しているので、太陽系の場合のようにシンプルな曲線に沿って速度が下がっていくようにはなりません。

想像図としては、こんな感じ。

rough sketch

中心に近過ぎる場合は、自分より内側にある星が少ないので、中心に向かって引っ張られる力も比較的弱くなってしまうはず。ですが、星がまばらになるほど遠くに行けば、太陽系と同じ様に速度の2乗が距離と反比例すると考えられます。


実際のグラフはこんな物です。線は特に意味が無いので無視して下さい。(1970年のルービンの論文から。アンドロメダ星雲のデータです。)

Andromeda

グラフの左の方、つまり銀河系の中心から近くのデータは予想通り。

でも、中心から遠くに離れても、速度が落ちる気配がほとんどありません

他のどの銀河系を調べても、中心から遠いガスの速度は遅くならないことが分かりました。


こんな事が起こる理由は何か。主に2つの可能性があります。

1.他の全ての観測から正しいと思われている重力の理論(一般相対性理論)が実は間違っていた。
2.望遠鏡の観測では捉えられていない、未知の物質がある。そしてこの物質は、星がまばらになるほど中心から遠い所にも沢山ある。

もし、理論が間違っていないとすると、見えない物質が、銀河系の中に沢山あるという事になるんです。これが、はじめて広く受け入れられたダークマターの証拠です。


(*)信号無視でパトカーに止められた物理学者が、「速く進みすぎて、赤の信号が青に見えたんだ」、と言う、正直つまらないジョークがあります。

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ダークマター

まだ時間の矢とかエントロピーでも、話し切れてない部分があるんですが、ちょっと違う路線で。

ダークマター、暗黒物質って聞いた事ありますか?


普通に辺りに転がっているような物体は、炭素やら鉄やら酸素やらの原子から出来てます。そして、その原子は、電子と原子核から出来ていて、原子核は、陽子と中性子から出来てます。

こういった物質については、ここ100年ほどの物理の研究で、かなり理解されているわけです。

でも、地球の外の宇宙を観測してみるとどうやら、こういった良く知られた物質以外に、なにか物質があるらしい、という事が分かってきたんです。これが、ダークマターと呼ばれるもの。名前の由来は、光を発しない事からです。


どういう証拠があってそんな事が言われるようになったのか。ダークマターってどんなものなのか。これからどんな事が分かると思われるのか。何回かに分けて話したいと思います。

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未来から過去へ

時間の矢については、最近本が出たんです。英語ですが。

From Eternity to Here: The Quest for the Ultimate Theory of TimeFrom Eternity to Here: The Quest for the Ultimate Theory of Time
(2010/01/07)
Sean Carroll

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昔の映画From Here to Eternity(地上より永遠に、ここよりとわに)にかけて、From Eternity to Here、という題です。時間を逆回しにするとどうなるんだろう、って事ですね。

著者のSean Carrollはカリフォルニア工科大学(Caltech)の教授で、物理のコンセプトをわかりやすく説明する名人なので、英語でも大丈夫という方にはオススメです。まだこの本自体は読んでいませんが、彼の書いた一般相対論の教科書、1時間の講義、ブログなどから、なかなか良い本だと思われます。


じゃ、一昨日の話の続き。

1リットルの容器を半分に分けて、片方に窒素、片方に酸素を同じ量ずつ入れます。それから、容器の真ん中のしきいを取り除きます。

1時間経った後、窒素と酸素の分布を見ると、1時間前には分離されていた事が分からないほど混ざりきっています。


ですが、物理の法則は時間反転に対して対称です。

これは、しきいを取り除いてから1時間経った時の、窒素と酸素の動いている向きを、全部反対にすると(速さは同じ)、逆回しのビデオのように以前の状態を辿っていって、1時間経った時には、片側に窒素、片側に酸素と分離された状態に戻るという事です。

分離した状態はエントロピーが低く、混ざり合った状態はエントロピーが高いので、この時間を逆回しにしたプロセスでは、時間が進むにつれてエントロピーが減っています。これは、熱力学の第二法則(エントロピー増大則)に反しているように見えます。(注1)なんでこんな事が出来るんでしょうか?


まず思い出して欲しいのは、エントロピー増大則は、確率的な法則だという事エントロピーが増える確率は、100%に近いけれど、100%にイコールではないんです。

混ざりきったように見えるトランプをシャッフルしたら、買ったばかりのように順番に並んでいる事や、ごちゃ混ぜになったルービックキューブを20回くらいデタラメに回してみたらきちんと揃う事は、ありえないと言っていいくらい珍しい事です。でも、絶対に起こらないわけじゃありません

窒素と酸素の例で言うと、窒素と酸素が混ざりきっている状態というのは沢山あります。それぞれ、1時間経った後の状態を見てみると、ほとんど全ての場合、窒素と酸素は混じり合ったままです。でも、今は混じっているけれど、1時間経つと窒素と酸素が分離される状態、というのが存在するわけです。


とサラッと書いてしまうと、「ほとんど全て」、って言うのがどれくらい100%に近いのか、確率についてあまり考えた事の無い人には伝わらないと思います。

トランプ52枚として、並び順が何通りあるか考えてみます。最初のカードは、52枚のどれが出てもおかしくないので、52通り。2つ目のカードは、最初に出なかった51枚のうちどれが出てもおかしくないので、51通り…という風に続けて行くと、トランプの並び順は、
52×51×50×…×3×2×1通りあることが分かります。
もうご存知かも知れませんが、これは、52の階乗と言って、52!と書かれることもある数字です。

計算してみると、↓こんな数です。
80658175170943878571660636856403766975289505440883277824000000000000
この数字は、68桁あります。ビッグバンから今までの時間を秒で数えても(これは18桁です)、この数にはとても及びません。(注2)

シャッフルしたカードが、たまたま順番に並びかわる確率は、52!分の1。宝くじ一等に当たる確率とは比べものにならないくらい小さい確率です。宝くじに10回くらい連続で当たる確率、です。


これは、52枚のトランプの場合です。窒素や酸素の場合、1リットルに入っている分子の数自体が、23桁あるような数字です。この気体が、1時間経つとひとりでに分離される確率と言うのは、小数点の後に、0が延々と続く数で、0の数を数えてみたら、0の数が何十桁もある、という途方も無く小さい数字になります。(0が何十個もある、ではないですよ。億や兆では済まない数の0が並んでるんです)

だから、時間が普通に進んでいるのなら、1リットルの空気のエントロピーが減る事はまずない、と言っていいわけです。


なんで時間が逆向きならこんな事が起こってもいいのかと言うとそれは、初めの状態が不自然なほど特別だったから、としか言えません。

混じり始めてから1時間後の気体の状態は、単に「窒素と酸素が混じり合った状態」、ではありません。これは、「窒素と酸素を分離した状態から、1時間経って混じり合った状態」という、もっとずっとずっと珍しい状態なんです。

時間を逆向きにした時の状態が、エントロピーが減るように特別に選ばれた状態だったから、エントロピー増大則が破られているわけです。


じゃあ、1時間経った後、全部の分子の動きを正反対にするのではなくて、分子を1つだけ、正反対とはちょっとだけズラしたらどうなるでしょうか。

室温、大気圧の空気の分子は、平均して5ミクロン動くたびに他の分子と衝突するそうです。分子の平均速度は、秒速500mくらいなので、1秒に1億回くらい、1つ1つの空気の分子は衝突を繰り返しています。

分子の動きを少しズラすと、ズラさなければ起こったはずの衝突が起こったり、起こらなかったはずの衝突が起こったり、同じ分子同士の衝突でも、衝突後の動きが変わってしまったりします。1つの分子の動きをズラすだけでも、瞬時に、億単位の数の分子の動きが大きく変わってしまうんですね。

このズレは、最初にズラされた分子にぶつかられた分子、それにまたぶつかられた分子、と連鎖反応でどんどん広がっていきます。1時間も経てば、容器の中のほとんどの分子は、ズラさなかった場合(1時間経つと分離される場合)とは違うところに行かされてしまっています。

1つの分子をズラすだけでも、1時間経つと分離される状態ではなくなってしまうんです。つまりそれだけ、エントロピーが減る状態と言うのは特別だという事です。


なんとも頭のこんがらがる話なんで、どれだけ伝えられたのか疑問ですが…このエントロピー関係の話が、自分の中では熱力学・統計力学と言われる分野の一番面白いところ、です。どうでしたか?


(注1)エントロピーが増えるというのは、閉じた系の場合なので、容器の外から、容器の中に何らかの影響があるのなら、中のエントロピーが減っても全く問題ありません。ただしこの場合、容器の外のエントロピーは増えていて、中と外を合わせた全体のエントロピーを見ると増えています。記事の例では、容器の中と外は完全に隔離されているとしてください。

(注2)言い換えると、混ざったトランプの並び順を見てみると、それはほぼ確実に、人類の歴史で今まで一度も起こったことが無い並び順なんです。面白いでしょ。

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ジャンル : 学問・文化・芸術

時間の矢の問題

前回は、エントロピーが、しっかりとした構造があると低くなるもので、月並み度、ありきたり度、と呼んでいいものだということ、そして、エントロピー増大則というのは、元々構造を持っていた配置から始めても、時間が経つにつれてありきたりな配置に変わっていってしまう、と言うことだと説明しました。


物理学から、1つ具体例を挙げます。(kashさんが違う例をリクエストしてましたが、難しかったので…)

空気は、約75%が窒素、約25%が酸素で、他の物質が少しだけ混じってます。ここだけの話、窒素と酸素だけ、ってことにします。

1リットルの空気を容器に入れて、窒素と酸素がどういう風に分布しているのか見てみると、均等に混じっていて、窒素の方が多い所とか、酸素の方が多い所と言うのはほとんど無いようになっています。

これは、コインを何度も何度も投げて、表が何十回も連続で出る確率が低いのと一緒で、窒素がたくさん固まっているような分布はありきたりではないから。要するに、固まっている状態はエントロピーが低く、混ざり合ってる状態はエントロピーが高いからです。(放って置いたら、エントロピーが高い状態になってた、という例です)

わざと窒素と酸素を分離した状態から始めても、そのうち混ざりきった状態になってしまいます。同じ種類の分子を固めて置いたわけですが、それぞれの分子は勝手に色んな方向に動いていってしまうので、どんどんありきたりな状態、エントロピーの高い状態になってしまうんです。


ここで、時間の矢の話に戻ります。

物質の運動を表記するための法則は、時間を逆向きにしても成立する、とこのシリーズの最初に書きました。ある時点で、物質を正反対に同じ速さで動かし始めると、映像を逆回しにしたように、以前の状態を辿っていくわけです。

という事は、
分離した状態→混ざり合った状態
の混ざり合ったプロセスの、正反対のプロセスも起こるはず
なわけです。

そして、
混ざり合った状態→分離した状態
というプロセスでは、エントロピーは減っているじゃないか
、と。

これが、時間の矢の問題です。


これをどうやって解決するのかは、明日か明後日に続きを書きます。

テーマ : 物理学
ジャンル : 学問・文化・芸術

2010

明けましておめでとうございます。

ゆったり休んでしまって、挨拶が遅れました。今夜バークリーに戻ります。

去年は、実生活でもブログでも半ばに方向転換がありました。今年もそのままの方向で行くつもりですが、リクエストなどには出来るだけ答えるようにしています。気軽にどうぞ。

読んでくれる方、コメントしてくれる方には再度感謝です。今年もよろしくお願いします。

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アシュリー

Author:アシュリー
カリフォルニア州バークリー在住、元スポーツジャンキーのアシュリーです。

今観るスポーツは、アーセナル(サッカー)とグリズリーズ(バスケ)、あとテニス。

専門の物理ネタ以外にも、色々書いていくつもりです。

Twitterをハンドル名Inoueianでやっています。

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